インフルエンザ

インフルエンザウイルス感染症

インフルエンザは主に冬(12月から3月あたりまで)に流行するウイルス性の疾患です。10月から流行が始まる年もあれば、年明けから本格的に流行する年もあります。

ヒトに感染するインフルエンザウイルスにはA型・B型の他にC型もありますが、流行して明らかに症状が出るのはA型とB型で、C型は流行することなく散発的に発生し軽い症状で終わってしまうため問題となることはありません。
インフルエンザは感染力が強く、脳炎・脳症、心筋炎、肺炎などの合併症が出ることがあるので、よく静養することが大切です。
スペイン風邪と呼ばれ歴史的なインフルエンザの大流行となったのは1918年のことで、インフルエンザの抗ウイルス薬であるタミフルが日本で保険適用となったのは約80年後の2001年です。

症状

38℃以上の発熱、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛が比較的急激に現れます。普通の風邪と同じように喉の痛み、咳、鼻水などの症状もみられます。嘔吐や下痢などの消化器症状が出ることもあります。熱は39〜40℃の高熱であることが多く、2〜3日続いた後に一度解熱し、再度発熱する二峰性の熱になって1週間くらいかかることがあります。抗ウイルス薬で治療すると発熱期間が短くなることが多いです。

感染経路、潜伏期間

感染している人の咳やくしゃみの飛沫を吸い込んで感染する「飛沫感染」と、感染している人が触ったドアノブなどに触れてしまい、その手で目や口や鼻を触ることで感染する「接触感染」があります。
インフルエンザウイルスの潜伏期間(ウイルスに感染してから発症するまでの期間)は1〜4日(平均2日)と短いです。

診断

鼻の穴に細い綿棒を入れてぬぐい液を採取し、一般的にはインフルエンザ抗原を検出する迅速検査を行います。ただ、発熱して間もないと検査で検知できるほどウイルスが増えていないことが多く、発熱後12〜24時間後から迅速検査で正確な結果が得られます。発熱後何時間後から検査ができるかどうかの明確な基準はありませんが、お子さんが嫌いな検査を何度も受けることは避けた方が良いと思いますので、検査のタイミングは症状と流行をみて判断します。家族にインフルエンザの方がいるかどうかなど周囲の流行状況や臨床症状によっては、検査を必要とせずともインフルエンザと診断し、治療を開始することもあります。
抗ウイルス薬で治療する場合は発熱後48時間以内であれば有効ですので、急に熱が出ても熱以外に心配な症状がなければ慌てずに、まずはゆっくり自宅で休みましょう。

治療

日本でインフルエンザの抗ウイルス薬の使用が始まったのは2001年ですから、それまでは自分の免疫で自然に治してきた感染症です。つまり、インフルエンザは薬を飲まないと治らない病気ではありません。ただ、インフルエンザの抗ウイルス薬を使用すると熱が1〜2日早く下がることが多いので、辛そうにしているお子さんには治療のお薬を処方することが多いです。
現在外来で使用されるインフルエンザの抗ウイルス薬は、ウイルスをやっつける薬ではなく、ウイルスの増殖を抑えるタイプの薬です。インフルエンザウイルスは発症から約48時間後までは増殖しますが、48時間以降ウイルスは自然減少に向かいます。よって発症から48時間以内に治療を開始することが有効です。

インフルエンザの治療薬には、以下の種類があります。

オセルタミビル(タミフル) 内服薬、1日2回、5日間
ザナミビル(リレンザ) 吸入薬、1日2回、5日間
ラミナミビル(イナビル) 吸入薬、1回吸入のみ
ペラミビル(ラピアクタ) 点滴薬、1回点滴のみ
バロキサビル(ゾフルーザ) 内服薬、1日1回、1日間

年齢や症状で治療薬を考えます。5歳以下のお子さんでは吸入が難しいことも多く、オセルタミビルのドライシロップ製剤を処方します。以前オセルタミビルは投与後の異常行動が疑われたことがあり、統計的に異常行動が多かった10代の方には使用禁止になっていましたが、その後オセルタミビルと異常行動との因果関係が認められず10代の方でも使用できるようになりました。吸入薬の場合はお子さんが1回で上手に吸入できるかどうかを考え、種類を決めます。バロキサビルは小児における使用経験が少なく、耐性ウイルスの出現率が高いと言われていることから、現状では推奨しておりません。

解熱剤はインフルエンザウイルスと相性が悪いものがあり、脳症の原因となることがあります。インフルエンザの患者さんの解熱剤は、アセトアミノフェンが安全です。

登園登校の基準

小学生以上のお子さんは、発症した日を0日として5日間を経過し、かつ、解熱した日を0日として2日間経過してからの登校になります。
乳幼児のお子さんは、発症した日を0日として5日間を経過し、かつ、解熱した日を0日として3日間経過してからの登園になります。
これは他の人に感染させないための登園登校基準ですので、お子さんがいつもの元気に戻るまでは無理せず更によく休みましょう。

インフルエンザの異常行動

インフルエンザではインフルエンザ脳症を起こしていなくても異常行動が見られることがあり、特に10代の患者さんに多いと言われています。ほとんどが発熱2日以内に起きます。異常行動で一番問題となるのは、急に走り出したり、窓を玄関と間違えそうになったりして、転落などの事故を起こすことです。診断後少なくとも2日間は、自宅でお子さんが一人にならないように注意してください。
異常行動による転落などの事故を防ぐため、次のような対策をしましょう。

  • ベランダに面していない部屋や、窓がない(または窓に格子がある)部屋で寝かせる
  • 一戸建ての場合は1階で寝かせる
  • 玄関や全ての窓をしっかり施錠する(玄関にはチェーンをかける、窓に補助錠をかけるなど)

インフルエンザ脳症

お子さんにとってインフルエンザは、新型コロナウイルスより強敵です。インフルエンザ脳症は主に5歳以下の小児に合併し、年間200〜300人がインフルエンザ脳症を発症し、命にかかわることもある重い合併症です。オセルタミビルが発売された時は子供たちを脳症から守ることができるのではないかと期待したのですが、今のところインフルエンザ脳症を予防できる研究結果は出ていません。
インフルエンザ脳症の多くは発熱後1日以内に意識障害、けいれん、幻覚、意味不明な言動などの症状が出ます。呼びかけても反応が乏しい、けいれんする(特に、けいれんの時間が長い、けいれんが左右対象ではない時は注意です)、意味不明の言動がみられて様子がおかしい場合には、すぐに医療機関を受診しましょう。

予防

予防接種

通常インフルエンザは11月下旬〜12月上旬から流行することが多いので、できるだけその前に予防接種を済ませておくようにしましょう。
生後6ヶ月のお子さんから接種できますが、生後6〜12ヶ月の赤ちゃんでは効果が出にくい可能性もあり、ご家族も接種を受けて家庭内にインフルエンザウイルスを持ち込まないことが大切です。
ほとんどの卵アレルギーの患者さんでインフルエンザワクチンは安全に接種できると考えられます。強いアレルギー反応が100%起こさないわけではありませんが、日本のワクチンは海外のものより卵成分の含有量は更に少なくなっていますのでより安全と考えられます。接種前に今までのインフルエンザワクチンの接種歴や卵アレルギーの経過をよく伺って判断します。
妊婦さんはインフルエンザが重症化するリスクもありますので、インフルエンザワクチンを受けることをおすすめします。また、お母さんがインフルエンザワクチン接種を受けると、お母さんの体でできた抗体は胎盤を通して赤ちゃんにプレゼントすることができ、生後まだインフルエンザワクチンを受けることができない月齢の赤ちゃんを守ることもできます。

生活で気をつけること

家に帰ってきたら、手洗いやうがいをしっかりしましょう。マスクをすることや、外出先ではアルコールの手指消毒も有効です。室内が乾燥するとインフルエンザウイルスは増えやすくなるので、湿度50%以下にならないよう加湿器などで部屋の湿度を保ちましょう。

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